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教育課程改善の思い
石川 哲也
1.臨時教育審議会
私が文部省体育局学校保健課教科調査官として赴任したのは、昭和59年(1984年)4月であった。
当時の中曽根康弘内閣総理大臣は、臨時教育審議会設置法を制定し、昭和59年8月21日、臨時教育審議会(会長岡本道雄)を発足させ「我が国における社会の変化及び文化の発展に対応する教育の実現を期して各般にわたる施策に関し必要な改革を図るための基本的方策について(諮問文)」について審議が行われた(第1回総会、9月5日)。
私が最初に遭遇した、教育課程改善の動きは、これであった。当時の学校保健課は、児童生徒の健康問題を解決するための教育、管理について充実する方向で審議会に取り上げられるには、どのようにすればよいかとのことであった。
健康に関しては、第3部会において検討されることとなった。第3部会には、小林 登(当時国立小児病院小児医療研究センター長)委員、岡野俊一郎(当時日本オリンピック委員会総務主事)、所属専門委員として河野重雄委員(当時お茶の水女子大学教授)などが、健康関係に理解のある委員であったと考えられる。特に小林委員は健康教育を充実させるよう様々な接触があった。
第3部会では審議の過程で提起された @中高一貫・単位制高校、A幼児教育、B高校入試、C道徳教育、D健康教育、E教員養成・資質向上、F教育課程・学習指導、G教育条件、H青少年問題、I心身障害児教育、J職業教育機関等11項目について検討された。
第3部会第6回(昭和59年12月18日)には、健康教育について自由討議が行われた。
さらに、文書によって教育改革提案を、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会などに求めている。
昭和60年(1985年)4月24日には、臨時教育審議会、審議経過の概要(その2)が、とりまとめられた。この中で、健康
教育は、次のように記されている。
(8) 健康教育
人間は、単に生物学的存在であるばかりでなく、文化的・社会的存在でもあることの両面性を洞察して、従来の保健という受け身の立場を超えて積極的な立場から児童・生徒の心と体の成長・発達と健康を考えることが提案され、今後、児童・生徒に対する教育内容とともに、教員養成についての取り扱いを検討していくこととした。なお、これとの関連で、自然との触れ合いの中で集団生活を体験することにより、人間と自然とのかかわりについて理解を深めるとともに、社会性、協調性を養うような方策を進めるべきである。 |
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昭和60年6月26日には、「教育改革に関する第一次答申」が提出された。
それによると、教育改革の基本的な考え方は、次の8項目であった。
(1) 個性重視の原則
(2) 基礎・基本の重視
(3) 創造性・考える力・表現力の育成
(4) 選択機会の拡大
(5) 教育環境の人間化
(6) 生涯学習体系への移行
(7) 国際化への対応
(8) 情報化への対応
また、健康教育については次のように記されている。
(4) 健康教育
児童・生徒の心と体の成長・発達、健康の増進を図り、また、自然との触れ合いのなかで集団生活を体験することにより人間と自然とのかかわりについて理解を深めることは重要である。このため、健康教育の在り方、自然の中での集団生活の実施などについて検討する。 |
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昭和61年(1986年)4月23日には、「教育改革に関する第二次答申」が提出され、第3章初等中等教育の改革、第2節教育内容の改善、(2) 教科等の内容・構成において健康教育について次のように記されている。
| ウ.健康教育を充実するため、道徳・特別活動および保健体育など関連する教科の内容、在り方を検討する。 |
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C健康教育については充実を図るべきである。都市化、情報化の進展は、従来の生活様式を大きく変化させ、児童・生徒の身体的活動を行う場所と時間を減少させている。また、現代の生活環境は児童・生徒の精神的負担を大きくしている側面がある。このような状況にかんがみ、児童・生徒の生活環境を健康的、人間的なものにするとともに、生命の尊厳、生きることの意義を基盤とし、単に生物学的、身体的観点からだけでなく、今後は、とくに心の健康を含め、長期化する人生の全生涯にわたり健康で充実した生活を送ることができるよう、体力の増進と健康教育を重視する必要がある。このため、道徳、特別活動における指導との関連を図り、保健体育など関連する教科については、健康科学を基盤として、新たに教科として再構成することが適切かどうかも含めその内容を検討し、それらが計画的、組織的に指導されるようにする必要がある。この際、とくに思春期に向けて性教育を含め正しい健康に関する知識が身に付くよう配慮する。
なお、学校における健康管理については、児童・生徒が日常の学校生活をすこやかに過ごすための基盤をなすことにかんがみ、養護教諭、学校医などの活用方策を含め、その在り方を改善する。さらに、学校における心身の健康管理が適切に行われるよう教育センター等におけるカウンセリング機能の充実も含め教育行政における援助体制の整備を図る必要がある。 |
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さらに、昭和62年(1987年)4月1日には、「教育改革に関する第三次答申」が提出され、第2章初等中等教育の改革、第5節開かれた学校と管理・運営の確立、(3) 学校の管理・運営の確立と生徒指導の課題において健康教育については次のように記されている。
| 経済・社会・文化の構造的な変化の中での学校と社会との新たなかかわり方の中で、飲酒、喫煙、薬物の問題への対応や性に関する問題は今後重要性を増してくると考えられる。これらの問題については、生命の尊厳を基盤として、教育環境の人間化や健康教育の観点から学校教育全体として積極的に取り組み、適切な生徒指導が行われるよう努力する。 |
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| C健康教育については、第二次答申において、生命の尊厳、生きることの意義を基盤とし、単に生物学的、身体的観点からだけでなく、今後は、とくに心の健康を含め、長期化する人生の全生涯にわたり健康で充実した生活を送ることができるよう、心身の健康の増進とそれに関する教育を重視する必要があるとして、その充実方策について提言を行った。 |
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最近の児童・生徒をみると、その体格の向上、性的成熟の加速はめざましい。また、社会環境も急激に変わっている。こうしたなかで、性に関する悩みをもつ者や問題行動を起こす者も少なくない。学校においては、児童・生徒の発達段階に応じ、性に関する科学的理解をもたせるようにするとともに、人間尊重を基本として好ましい人間関係がもてるよう、家庭や関係機関との連携・協力を図りながら積極的に取り組む必要がある。
また、飲酒、喫煙、薬物(麻薬、覚せい剤、シンナー等)の問題の指導についても重要視すべきであると考える。
これらに関する指導は、従来ともすれば非行対策の観点からとらえられがちであったが、今後は関係機関がその防止に積極的に取り組むだけでなく、健康教育という観点から、科学的な心身の知識について理解させるとともに、自分自身の人生やその基盤となる健康についての認識を深めさせるよう、教育・指導の改善に取り組む必要がある。 |
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その後、昭和62年8月7日、教育改革に関する第四次答申(最終答申)が提出され、第3章改革のための具体的方策、第3節初等中等教育の充実と改革、1.教育内容の改善において健康教育は次のように記されている。
(2) 基礎・基本の徹底と個性の伸長
A 教科等の内容、構成
小学校低学年においては、教科の総合化を進め、中等教育段階における社会科の構成のあり方を検討する。
健康教育を充実するため、道徳・特別活動、保健体育などに関連する教科の内容、在り方を検討する。 |
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また、第3章、第4節国際化への対応のための改革、6.開かれた学校と管理・運営の確立、
(4) 学校の管理・運営の確立において健康教育は次のように記されている。
| また、生命の尊厳を基盤とし、教育環境の人間化や健康教育の観点から、飲酒、喫煙、性などの問題に、学校教育全体として積極的に取り組む。 |
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このように、健康教育の充実に関しては、かなり記述され、健康教育の方向が具体的に示された。これには、小林教授の執念のような思いが込められていると感じた。
また、記録には残されていないが、第3部会に養護教諭もよばれ児童生徒の健康の実態や保健室の状況などについて審議会に訴えた。
2.平成元年(1988年)の学習指導要領改定に向けての動き
(1) 中央教育審議会
中央教育審議会は、昭和56年(1981年)11月24日、文部大臣から「時代の変化に対応する初等中等教育の教育内容などの基本的な在り方について」の諮問を受け、同年12月「教育内容等小委員会」を設置、審議を行った。審議の結果昭和58年11月15日に審議の経過報告を出している。
それによると、学校教育において今後特に重視しなければならない視点として、つぎの4点を挙げている。
(i)「自己教育力」の育成、(A) 基礎・基本の徹底、(B) 個性と創造性の伸長、(C) 文化と伝統の尊重。
また、小学校低学年においては、教科の改廃を含む再構成を行う必要性を示している。ここでの報告は、臨時教育審議会の影響をまともに受けたと考えられ、中央教育審議会の答申とはなっていない。しかし、この内容はこれからの教育課程の改善に大きな影響を与えている。
(2) 教育課程審議会
教育課程審議会は、昭和60年9月10日文部大臣より「幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について」の諮問を受け、審議を開始し、昭和62年12月24日答申を文部大臣に提出した。
教育課程の改善のねらいについては別表参照。
この答申の中で特筆すべきことは、小学校の低学年に生活科の新設を指摘したことである。答申には次のように記されている。
| (小学校の)低学年については、生活や学習の基礎的な能力や態度などの育成を重視し、低学年の児童の心身の発達状況に即した学習指導ができるようにする観点から、新教科として生活科を設置し、体験的な学習を通して総合的な指導を一層推進するのが適当である。 |
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これにより、小学校低学年の、社会科と理科が廃止され、新たに生活科が誕生した。生活科においては、健康・安全についてもその指導内容として取り上げられることとなった。
中学校においては、選択教科については、選択履修の幅の拡大を行った。これにより、保健体育は2年から履修が可能となり、従来は体育分野のみが選択の対象であったのが、保健分野も選択が可能となった。
また、教育課程審議会とは関係がないが、小学校に保健の教科書が誕生したのは、この改定のもっとも大きな成果であったと考える。
3.平成11年(1999年)、12年(2000年)の学習指導要領改定に向けての動き
(1) 中央教育審議会
中央教育審議会は、平成7年4月26日文部大臣より「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」の諮問を受け、審議に入った。
審議会においては、「生きる力」を育成することを基本的な観点として、学校週5日制を導入するための、内容の厳選が中心課題となった。
第1次答申は、平成8年(1996年)7月19日提出され、学校のめざす教育として、@生きる力の育成を基本とする、
A学校ですべての教育を完結するという考え方をとらない(生涯学習社会)とし、@ゆとりの中で生きる力を育てる、A教育内容の厳選、B基礎・基本の徹底、C個性を伸ばすことなどを提言した。
(2) 教育課程審議会
教育課程審議会は、平成8年8月27日、文部大臣より「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」の諮問を受け、審議を開始した。
生きる力を育成することについては、中央教育審議会を受けて、審議が進んだが、内容の厳選については、様々な議論がなされ難航した。
平成10年7月29日、答申をまとめ文部大臣に提出した。
教育課程改善のねらいについては別表参照。
健康教育に関して特筆すべきことは、次のような記述である。
| 児童の発育・発達の早期化や生活習慣の乱れなどに対応するため、現在、小学校において高学年から指導している保健に関する内容を中学年から指導するようにする。 |
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これにより、小学校第3学年から体育の保健領域の指導が行われるようになった。したがって、健康教育は、幼稚園の健康領域から、小学校低学年の生活科、小学校中学年以後の体育科、保健体育科で時間数は少ないものの継続した指導が可能となった。
また、総合的な学習の時間が小学校第3学年以後、新設されたが、この領域においても「健康・福祉」に関する活動が例示された。
別表:教育課程審議会答申「教育課程の基準改善のねらい」の流れ
| 昭和33年3月15日 教育課程審議会答申「小学校・中学校教育課程の改善について」 |
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(1) 道徳教育の徹底
(2) 基礎学力の充実
(3) 科学技術教育の向上 |
| 昭和42年10月30日 教育課程審議会答申「小学校の教育課程の改善について」 |
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(1) 日常生活に必要な基本的な知識や技能を習得させ、自然、社会および文化についての基礎的理解に導くこと
(2) 健康にして安全な生活を営むに必要な習慣や態度を身につけさせ、強健な身体と体力の基礎を養うこと
(3) 正しい判断力や創造性、豊かな情操や強い意志の素地を養うこと
(4) 家庭、社会および国家について正しい理解と愛情を育て、責任感と協力の精神をつちかい、国際理解の基礎を養うこと |
昭和43年6月6日 教育課程審議会答申「中学校の教育課程の改善について」 |
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(1) 自然・社会・文化などについての理解のいっそうの発展をめざす
(2) 人間として調和と統一のある発達をめざす
(3) 家庭、社会および国家の形成者としての必要な資質の育成をめざす
(4) 社会的使命の自覚を促すとともに、将来の進路を選択する能力の育成をめざす |
昭和44牢9月30日 教育課程審議会答申「高等学校教育課程の改善について」 |
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(1) 人間として調和のとれた発達を目ざす
(2) 国家および社会の有為な形成者として必要な資質の育成を目ざす
(3) 生徒の能力・適性の伸長を図り、男女の特性に応じた教育を行なう
(4) 教科・科目等の内容についてその質的改善と基本的事項の精選集約を図ること
(5) 教育上必要な場合に一部の科目の指導時間を増加してその学習を深めたりするとともに、教科以外の教育活動の充実を図ることができるようにすること |
昭和51年12月18日 教育課程審議会答申「小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準について」 |
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(1) 人間性豊かな児童生徒を育てること
(2) ゆとりのあるしかも充実した学校生活が送れるようにすること
(3) 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視するとともに児童生徒の個性や能力に応じた教育が行われるようにすること |
昭和62年12月24日 教育課程審議会
「幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について」 |
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(1) 豊かな心をもち、たくましく生きる人間の育成を図ること
(2) 自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること
(3) 国民として必要とされる基礎的・基本的な内容を重視し、個性を生かす教育の充実を図ること
(4) 国際理解を深め、我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成を重視すること |
平成10年7月29日 教育課程審議会答申
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、襲学校及び養護学校の教育課程の
基準の改善について(答申)」 |
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(1) 人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること
(2) 自ら学び、自ら考える力を育成すること
(3) ゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること
(4) 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること |
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