宮下 和久

平成8年、本学会の幹事長が滋賀大学の林 正 教授から気鋭の兵庫教育大学・勝野眞吾教授へバトンが渡されました。若きリーダーに学会の更なる活性化が託されました。
学会の持ち方に関して新たな方向性として、学会活動の活性化、学会の幅広い知的ニードに応えるために、一般演題の募集を「研究発表」、「実践発表」の2分野に分けて募集を行う試みがなされました。「実践発表」は現場での健康問題の実践課題をより多く具体的に学会に提起し、学術的討論を深める機会として意義があろうと思われます。特に、学校現場で直接子どもたちと接している教諭、養護教諭、学校医等のより積極的な参加を促すための魅力ある学会活動の一方法として位置づける必要がありましょう。
ところで、子どもたちの心身の健康に大きな影響を及ぼす出来事として、平成7年の阪神淡路大震災、平成9年の神戸の少年事件や平成13年の大教大附属池田小学校児童殺傷事件など、子どもたちにとって本来「安心して勉学できる」場で、子ども自らが凶悪な犯罪を犯し、あるいは犠牲者になるという衝撃的な事件が起こりました。自然災害が子どもたちの心身に及ぼした影響を科学的立場で検証する必要がありますし、学校が巻き込まれた凶悪事件が子ども達に及ぼす心の健康への影響を観察すると同時に、その事件の背景要因についても充分に検討する必要がありましょう。本学会でもこれらに関連して、あるいは、いじめ、不登校などの近年増えつつある問題に関連して、子どもたちの心の健康が注目され、研究発表、現場からの実践報告の形で多くの発表がなされました。さらに、「心の健康づくり」「少年犯罪と非行をめぐって」「子どもたちの心の健康と学校の役割」等のタイトルでシンポジウム、特別講演、公開講座等で積極的に取り上げられました。今後、教育の本質である「健やかな心を育む」教育活動、自己の他者との関わりに関するコミュニケーションスキル、メンタルヘルスサポート等学校内での心の健康に関する研究、実践が期待される一方、家庭や地域を巻き込んだ子どもを取り巻く「心の健康」の形成に望ましい環境整備に向けた、学校からの取り組み、実践活動が期待されましょう。
生活習慣に関連した子どもの健康問題、肥満、痩せ、身体イメージ、また、健康問題の基本としてのライフスキルにも注目が寄せられ、学会においても多くの研究がなされています。
生涯健康づくりの出発点として学校保健の存在意義はまさにこの生活習慣に関連した子どもの健康問題に集約されましょう。子どものライフスタイルの研究、肥満や痩せの実態、痩せ願望や身体イメージに関する研究による知見の蓄積、関連する健康教育のあり方に関する研究は今後共重要な課題であると思われます。一方、「心の健康」と同様、家庭や地域との関連をもった取り組みや研究が重要となりましょう。地域において「わが町の健康」(健康日本21)が策定されつつあります。町全体で取り組む生涯健康づくりの枠組みに積極的に学校が参加していく、学校で、本学会で蓄積された知見を積極的に計画に反映させていく、まさに、学校と地域が「健康づくり」でスクラムを組めるチャンスだと思います。
子どもたちの発育・発達はその時代の社会、経済状態の変化に敏感に反応します。長い時間軸を基盤にした発育・発達の基礎的研究、生活環境の変化と発育・発達との関連を地道に研究を行っていくことも、引き続き本学会の大切なスタンスであると思われます。生活変化の対応のギャップが今日の子どもの健康問題の一因であるならば、発育・発達研究はまさに基礎的かつ重要な知見を提示していることになります。
最後に学会のこれからの展望に関して私見を述べたいと思います。
子どもたちの健康問題を実践活動や研究活動を通して、自由闊達に議論し合える場として学会活動があると思いますし、まさにそれが学会の存在意義であろうかと思います。と同時に、学会は社会的存在でもあります。今日、子どもたちを取り巻く健康問題は複雑多岐にわたります。これらの問題の背景には、現在の社会環境が色濃く反映されています。子どもたちの健康問題を考究する学会の姿勢に、学会として子どもたちの健康阻害要因を排除するあるいは子どもたちの健やかな生活をより推進するために必要な要件等を「社会にアピール」していく社会的行動が今後必要ではなかろうかと思います。子どもたちのために何をしてきたかを問う50周年であろうと思いますし、同時に将来に向けて何をなすべきかを見据える節目の時でありましょう。
学会のこれからの姿として、問題が起こってからの研究、対策が現状とすれば、一歩踏み込んで問題の起こる「前夜」に活動を起こす考究の場でありたいと願うものであります。