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第44回近畿学校保健学会 教育講演
病原性大腸菌O‐157感染の予防
奈良県内吉野保健所 柳生 善彦
【緒言】 数々の集団感染事例が発生する中で、病原性大腸菌O‐157(以下、本菌)は国民的関心の高まりを見せた。現在も各地で集団発生及び散発発生が続いており、溶血性尿毒症症候群(HUS)などの合併症による死亡例も報告されている。感染経路そのものは末だ確定的ではないが、原因食品としての学校給食の関与が極めて重要視されており、今後も学校(特に小学校)における発生の可能性が懸念される。この様な状況からも、本菌感染症に対する学校保健の観点からの対策が、今後益々重要になってくるものと予想される。
本稿では、本菌感染症の予防対策に加え、過去の自験例をもとに、集団感染事例発生時の対策に必要と思われる若干の知見(特に、二次感染についての考え方)も併せて、述べることとする。
【用語の整合性】 本菌感染症をとりまく用語にはお互いに類似した専門用語が多く存在するため、時に混乱や誤解が生じている(表1)。
従って、本菌感染症の予防や感染事例発生時の対策を考える場合、その対象者や担当者が、できるだけそれらの用語を弁別して認識し、正しい知識を持つことが、不要な不安を除去することにもつながり、従って、重要な要件となってくるものと思われる。
【二次感染の方向性】 本菌は大腸菌の一種でありながら、赤痢菌の様に人から人へ(Person to person; PTP)の二次感染が認められることが、特徴的である。しかし、二次感染と言っても、実際には家族内感染かそれに準ずる濃厚な接触状況が主であるにも関わらず、一般的には、保菌者が近くに来ただけでも感染するような誤ったイメージが持たれ、必要以上の不安感や恐怖心を誘発している。このことが菌陽性児童の登校等に関して、過剰な反応を引き起こす一つの要因にもなっているものと考えられる。
筆者の経験した某小学校での集団感染事例でも二次感染が5例認められたが、全例「家族内感染」であって、クラス内等の感染は認められなかった。また、年齢的には全て「小学校低学年」から「より年少の弟妹」への方向であった(図1)。
この様な伝播様式の傾向を知っておくと児童が低学年であるか否かという、宿主要因としての年齢特性(同胞の有無・性別を含めて)によって、予防の指導方法も自ら異なってくることが理解できる。
【集団感染発生時の対策】 予防対策を万全にし、集団感染等を発生させないことが最も望ましいが、現状は逆に増加傾向にあり、いつ何処の施設において発生しないとも限らない。従って、通常時からこれら緊急時への対策準備を心がけて置くことは、決して無駄なことではないと考えられる。
まず、普段から、学校保健という観点からの学校内の連携はもちろんのこと、教育委員会、市町村保健センター、保健所といった関係団体とも連携に努めることが重要である。その実現には、養護教諭の調整的役割が期待される。また、保護者に対しても、日頃から学校通信などを定期的に発行しておくことで、緊急通知文刊行時の不安の度合いが軽減されると考えられる。
また、緊急時の校内対応体制を検討する際には、学校保健に固有の課題(表2)を考慮しておくことが有益である。特に、事例発生時における学校行事、休日、曜日といったものが、対策を講じていく際に、意外と大きな課題となるので、各学校の実状に応じた体制を、事前に十分検討しておくことが望ましい。
さらに、他の感染症対策との異同(原因菌の違いによる経過の相違等。例;結核)を把握しておくことが、緊急時での、より円滑な対応の一助になるものと思われる。
【学校保健における予防対策】 学校における集団発生事例の多くは、学校給食が原因であった。
しかし、幼稚園での井戸水を原因とした、死亡例を含む事例も報告されており、その症状の激烈さを考慮すると、今後は学校においても、水系感染に対する警戒も必要となってくる。
井戸水を飲料水に使用する場合や、上水道を使用している場合でも貯水槽を地下に設置している場合は、注意を要する。井戸水であれば、飲用前に煮沸するなど、通常の食中毒予防対策が必要であるし、たとえ水道水であっても長期休暇直後等で暫時使用中断している場合は、十分な残留塩素濃度が確保されていない可能性も考慮しなければならない。
また、貯水槽が20年以上前に設置された地下式のものであれば(特に、汚水槽と隣接したものであるならば)、健康被害が発生する前に、現在の基準通りのものを設置することが望ましい。
ところが一方では、過剰な感染予防によって、また別の側面の健康被害を生じさせる可能性があることも、十分認識しておく必要がある(表3)。
【結語】 以上述べたように、学校保健の場においても、十分な予防対策を講じておくと共に、日頃より集団感染発生時の対応にも心がけておくことが、たとえほんのわずかでも児童・生徒の健康被害を防ぐことにつながるものと考える。
【参考文献】 柳生善彦:家族内感染をも伴った病原性大腸菌O157による腸管出血性大腸炎の小学校における集団発生事例〜学校保健からみた問題点とその対策〜,学校保健研究.38(6),604-609,1997.
| 表1 用語の整合性 |
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表2 学校保健に固有の課題 |
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●病原性大腸菌/腸管出血性大腸菌
●O157/O-157
●O126,O1,O55,O148/ベロ毒素
●患者/感染者/有症状者/菌陽性者
●二次感染(PTP)/家族内感染/施設内感染/地域感染 |
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●学校保健体制および連携体制
●事例好発季節における学校行事
●夏休み/プール/運動会/週休2日制
●学校保健の隣接領域との関係
保育所/幼稚園/養護施設
●菌陽性児の登校
●児童のプライバシーの配慮
●学校生活復帰後の腎管理指導 |
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表3 学校における予防対策 |
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●学校給食の安全性の確保
●学校内施設の安全性の確保
トイレ/水道/手洗い励行
●水系感染予防措置(貯水槽)
●過剰消毒の是正(高塩素) |
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図1 2次感染(家族内感染)5例の伝播方向
――第44回近畿学校学会抄録集より――
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