近畿学校保健学会

AND OR   大文字と小文字を区別する  
ホーム
学会の目的・活動内容
会則/最新の学会通信
事務局からのお知らせ
次期学会について
入会ご希望の方へ
役員名簿
過去発表資料(表題検索)
学会通信(PDF検索)
50周年記念誌(表題検索)
リンク集
お問い合わせ


Powered by
kobe-u.com
 
 近畿学校保健学会へのそのときどきの想い 第 II 期
 

健康教育と保健教育(2)

大阪学芸大学 教授  榊原 栄一


 さきに、健康教育と保健教育の内容の相違について、いささか所見を述べた。そして、保健教育のよりどころを世界保健機関憲章の中の一節、The extension to all peoples of the benefits of medical,psychological and related knowledge is essential to the fullest attainment of health (医学的及び心理学的知識並びにこれに関係のある知識の恩恵をすべての人民に及ぼすこと)に求めたのである。このような内容を有するものと仮定したからといって、保健学は医学なり心理学なりという学問体系そのものではなく、又その応用の学問でもないと考えるのである。全く独特の内容と目標をもった教育科学であらねばならない。

 従来保健学を規定せんとする試みは多くの人々によって行われている。簡単にふれてみれば、オカンツィークは病人に対しては治療、健康者に対しては保健であると指摘している。すなわち、この内容を「保健は健康者を対象にして、健康な人々が病気にならないように保護することがその目的である」と解釈すると、一種の予防医学的性格を持つことになる。福田教授は「保健学は病気にならないようにする学問である」と表現している。また米国では心身を病気にならないように予防管理することに着眼したと思われる「綜合保健」Comprehensive health careの表現もある。

 このように予防医学や公衆衛生学的な基盤における保健、すなわち保健学の体系化が圧倒的に多いようである。これを実際的に表現すれば、予防医学や衛生学を個人の疾病予防に応用するように体系化したものを保健とし、その学問体系が保健学ということになるのではなかろうか。私はこのような体系化にはどうしても納得できないのである。そもそもこのような理論構成は病気を治す治療医学的な見方が土台であって、その対照的な病気にならないようにすると云う言葉のあやからスタートしているようである。聖アクィナスの「医学には、病気を治す医学と健康の維持に協力する二つの医学があり、一は病人に対し、一は健康者に適当する」という言葉がある。即ち後者を保健とすれば、これは明らかに医学そのものになるのである。勿論、医学、とくに予防医学、衛生学や生理学の理論や知識は人体の健康を論ずる上に不可欠の基礎条件であろう。しかしながらこの基礎条件が直ちに保健学であるかのように思考するのは困るのである。この基本的条件と同様に心理学が直ちに保健学の一半であると理解することも賛成出来ないのである。またこれら両者を有機的に結合させた体系にしても単に基礎条件の積重ねに過ぎないと考えるのである。
 
 精神と肉体とは不離一体であることは何人も否定しない所であり、一方の異常は他方に影響を与える。胃潰瘍の発生を例にとっても精神労働者は肉体労働者よりも数倍多発することが知られており,また断腸のおもい、胸をこがす、心痛というように心の異常を肉体感覚で表現しているのである。このような関係から、最近精神身体医学psycho-somatic medicineなる領域が展開されてきたが、保健学は内容的にみれば、この領域に一番近いように考えられるのである。なぜなら医学と心理学的の両面からみてこの医学は恒常性理論がその根本になっているからである。

 健康はその定義に明記されている「完全によりよく存在する状態」astate of complete well-beingであるから極めて積極活動的な進行形であって、静止伏態ではないのである。現在を起点として刻一刻よりよい状態へ前進し増強されてゆかねばならぬ。「いかなる環境にあっても心身が合理的に正常に適応し、調和を保ちうる能力」、これを恒常性というけれども、そのような状態は個人最高の彼岸目的である。この最高の彼岸目的の達成は極めて困難なものであるが、究極は個人の幸福に通ずるものである。即ち「恒常性の保持・増進」こそ保健の真髄であり、心身相関の原理に関し、有機的に系統的に論証してゆく学問体系が保健学であると考えるのである。然るが故に保健学は科学であり、教育科学でなければならないと考えるものである。

  最近、元京大総長平沢 輿 先生は健康とは「いかなる環境にも適応しうる状態」と喝破されました。この短い言葉こそ私が求めていた保健教育の目標であり,深く感銘し敬意を表すものである。


――昭和41年8月10日 近畿学校保健学会通信 No.9 より――

近畿学校保健学会のホームへ
近畿学校保健学会事務所
〒657-8501 神戸市灘区鶴甲3-11 神戸大学発達科学部健康発達論講座
2004 © 近畿学校保健学会 All rights reserved.