近畿学校保健学会

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 近畿学校保健学会へのそのときどきの想い 第 II 期
 

保健教育の振興充実

大阪市立中学校教育研究会 保健部 部長  岸  堅一


1.第13回近畿学校保健学会におけるシンポジウムを省みて

(1) シンポジウムにおける私の訴え
 標記の学会は去る6月19日(日)大阪学芸大学において開催され、そのシンポジウムにおいて私は演者を命ぜられたので、「今日における中学生と性教育」と題して次のようなことを発表した。
すなわち、accelerationとして今日人々の注目を集めている成熟への著しい加速化から、その性機能の成熟も早期化して性意識の発達には見逃し難いものがあること(1.今日の中学生の性意識)、このような中学生の周辺には強烈で俗悪な性の刺激があふれ、また性の被害にも憂慮すべきものがあること(2.中学生の周辺=性環境)、そして、これら中学生は性に関してどんなことを指導してほしいと願っているか(3.中学生の性教育観)等々について、私が実施した調査結果に基づいて現実を率直に開陳した。そして、さらに今日の中学校における性教育の実情及び私の考える中学校での性教育についてもふれた。
 これによって私は先ず第一に少年の性犯罪や青年の性病問題が深刻となっている現時の世相から義務教育の最終段階としての中学校において意図的計画的で、系統的科学的な性教育の実施が極めて緊要であることを強調した。そして第二には、この性教育の強力な実施を通じて保健教育(保健学習及び保健指導)が振興充実される必然的な結果を指摘した。

(2) シンポジウムの空気
 この学会も、そこにおけるシンポジウムも、現場の教師や非常勤の校医その他をはじめ、大学の教授など学校保健に関与するすべての人たちが相集って、現場の学校保健のいっそうの向上発展を期して衆知を集めるための場であると私は解釈している。
 しかるに私の印象は竹村 一 氏の特別講演もそうであったが、それに続くシンポジウムからも、これら各関係者の考え方が現場の進み方や意図と必ずしも一致しておらず、しかも妥協と協調の気配が全くないということであった。さらに心外なことは、われわれ演者をつるしあげるようなことだけが多く、めいめいが思い思いのことを好き放題にしゃべっているといわれても仕方のない場面が多かったことである。純粋な論理の展開や深遠な真理の探求は、そのような関係者の集まりの、それにふさわしい場で行なわれればよく、あの場において、ある学説に基づいて演者の幼稚園長に食さがる場面がみられたのは、実に情ない限りであった。
 このような空気から私はいたたまれなくなり、演者でありながら特に発言を求め、次の趣旨を述べた。すなわち、「これまでの経過から大学の教授たちの所論と現場の進み方の間にずれが感じられること。現場の学校保健をより健やかに育てるために相互が折れ合い協力し合うことが何よりも必要なこと。そして、これがまたこの学会をより発展させる道でもある。」ことを述べ、感情に捉われない協和を要望したが、期せずしておこった満場の万雷の拍手に面くらいもし、また、心なぐさみもした。
 私どもは教育関係法規の規定と文部省学習指導要領の指向に従って、日々の教育活動を展開しているものであって常に次代をになう若い生命とともにある立場を理解してほしいと思う。


2.健康教育13単元と教育課程の改訂

 現在、中学校保健体育科の保健学習は昭和24年(文部省)中等学校保健計画実施要領(試案)第5章「健康教育」に、その源を発している。この13単元は戦後の混乱した社会に巣立つ中学生に健康生活の指針を与え、その後年々歳々現場で反復される習慣形成や保健指導の科学的な根拠ともなった。保健学習が生活に取材し生活に還元されるべきものであっても、その過程に科学的学問的な立場からする問題の解決を欠かすことはできない。これがない限り保健学習は生徒には興味のないお説教としか受けとられなくなり、また進学一辺倒の学校では軽く忘れ去られてしまうであろう。
 しかるに、その後これが改訂されるたびごとに、だいじな部分はもぎとられ、乏しい内容の空虚な淋しいものになってしまった。関係者に若い保健学習を育てる暖かい親心があったなら、これに関係あることや必要なことを、すべてここに集大成されていったと思う。ただ自己の領分を侵されまいとし、己の持つものを離すまいとする狭量な根性は情ない限りである。
 こうした意味から昭和24年の13単元は、その内容が実にりっぱであったし、それが果した使命は実に大きく、私はこれに限りない郷愁を感ずるものである。従って保健学習の強化策の一つは、その内容の出発当時への復帰にあるとさえ私は考えている。近い将来、学習指導要領が改訂される場合、この私の悲願が必ず考慮されることを願うばかりである。


3.保健教育の振輿充実

(1) 一般教育の基礎的保健知識の修得
 学級活動における保健指導をはじめ、学校行事等の機会をとらえて行なわれる保健指導などは全教職員の仕事である。私たちは児童生徒の保健管理と保健指導に甚だしい学級差が何れの学校にもあることを知っている。それは学級担任の健康に対する理解と認識の程度に由来している。
 この問題を解決する方策の一つは教員養成大学において保健を必修とし、その基礎教養を修得させることである。およそ教員を志すものには最低必要な保健の知識を修めるべきことを義務づけ指導力の均等化を図ることが緊要である。他の一つは現に勤務する教員の研修を強化することである。そのためには研修会や研究発表会の開催や研究の奨励などが考えられよう。

(2) 保健教師の資質の向上と均等化
 保健学習を担当する教師に、その指導技術や程度に大きい個人差のあることも事実である。現行の七つの内容をじゅうぶん消化できずに上すべりに終って時間をもて余すものもあれぱ、能力あるまま堀り下げすぎて時間の不足を訴えるものもある。
 これを解消するには何よりも教員の研修を強化することであり、さらには学校管理機関による指導体系を確立し、現場に対する指導を一段と強化することである。たとえば指導主事に有能な者を用い、現場の訪問指導を徹底するとともに、保健教師に対する研究を多く課し、その適切な指導助言に当らせることなどが考えられる。
私は改めて叫びたい。保健教育は人間形成の基盤となるものであり、個人の幸福も国家の興隆も一にかかってこれに淵源することを銘記し、その振興充実のために関係者は全力を虚心に結集しようではないか。そして、この保健学習に対して燃えてつきない情熱を燃やそうではないかと。


――昭和41年8月10日 近畿学校保健学会通信 No.9 より――

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