近畿学校保健学会

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 近畿学校保健学会へのそのときどきの想い 第 II 期
 

第11回日本学校保健学会シンポジウム「本学会10ヶ年の回顧と展望」より
伊東祐一教授の話題提供

 少し大げさな言葉ですが、保健教育が現在危機にさらされていることを充分知っていただきたいと思います。
戦前、生理衛生と言われていた教科が戦後保健という名称で取り上げられるようになったことは一大進歩です。そして徐々に花が咲きかけたのですが、一方ここ数年来しぼみかけるというようなことが私達の眼から見ると卒直に申して誤まりないと思います。

  また、本学会の従来の発表題目や本学会の機関誌での発表題目並びに相当発行部数の出ている保健教育という雑誌の発表題目を通覧しますと、学校保健管理面には多くの研究発表がありますが、保健教育については非常に少く8対2の割合でないかと思います。
 
  偶然にも本学会の発表に保健教育の成果や評価という問題が割合多く取り上げられたようですが、これは従来余り見なかったことです。併しまだ保健教育自体の本質的な問題についての発表は殆んどなく、勿論、保健教育については教科内容の点が問題になるんですが、それは一応文部省で制定された指導要領によって行われていますが、これもまだ充分検討の余地はあると思います。
 
 一面、保健教育が低調であるということは教師自身に人を得ないということです。これは鶏がさきか卵がさきかというのと同じように私達が感じているのでは10数年も経って保健教育を行ったのであるが、それが非常に低調でどこでも余り熱心にやらない、だから余り必要じゃないという妙な逆説的論法が、どうも一般の傾向であるように思います。
 
  私達この問題に当面する者は重視していますが、これはまるで大海の中に1石を投じたようなもので、やはり社会全般の、殊にジャーナリストや政治を担当する方達が充分認識して貰いませんと我々だけでは我田引水的になってしまい、現に私などはまたかと言われている状態です。従って保健教育は低調で人を得ておらず、保健担当の教師の養成にしても今私は大げさに重大危機と言いましたが、私共の大学では保健科教師の養成を従来行っておりましたのにこの40年度からは学生募集の定員減のため保健科の希望者もないし、その教師の必要もないからと削られてしまったのです。保健教育上の危機と言わねばなりません。

  他面、保健管理の面については、学校保健法の制定以来、満足とはいえないが教育面よりは満足のように考えています。
特に皆様が保健教育の実態を充分把握、この教科の拡充方策を本学会のような場を通して充分考えていただきたいと思います。
 
  先般ユネスコの総会に出席しました折、偶然パリ大学の薬学部の教授で、その学部で学校保健担当のゴビエ教授にお会いしましたが、教授はフランスには別に保健という教科はない、中学教育――日本の中学から高等学校に該当するのではないか――では自然科学という名称の中に生物学があるが、そこで保健の学習を行い、その時間は大体週一時間ということでした。
 
 日本では中、高の学校で2、3年生が週一時間ということに比較しますと時間数も多く、担当教師は一般の生物の先生プラス医学部なり薬学部で衛生学や保健教育の講座を聴講した者が原則としてその講義を担当するというようなことになっているようです。

 これと比較すると現在の我が国の保健教育というものは非常にお寒い感じが致します。その上その保健教育すらも一般の認識がないというか抹殺して、保健体育というものがあるからそれで充分だ、体育と一体をなしておれば独立のものは必要ないという、御承知のように教育職員免許法では現在、保健体育と保健という2通りの免許証があるが、それすらも充分知っている人がなく、保健体育で保健と体育をやればよいのだという考えの人が教育を担当している先生方の中にも若干あるようです。

  教育職員免許法には、保健体育と保健というはっきりした2つの名称があるのですが、私から申せば体育と保健という2種の免許証にするのが好ましいのでないかと考えます。しかし今教育職員免許法改定問題が出ておりますが、ことによると保健という免許証が削られてしまうのではないかということを恐れております。
文部省側の考えと大蔵省側の考え、あるいは国会の文教委員の考えを色々総合しますと決して楽観すべき状態でないと想像します。
  この際本学会あたりが強力な一つの推進力となってこのしぼみかけている保健教育に立派な花を咲かせていただきたいと思います。


――村上賢三:日本学校保健学会20年史,日本学校保健学会刊(昭和49年)より――

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